元々は唐沢岳幕岩左方ルンゼに行く予定だったが、諸条件から錫杖岳3ルンゼに変更する事にした。条件的にはあまり変わらないかもしれないが、どうせならピークにたどり着くルートがいいねという事になり決定した。
21日(晴れ):ルンゼ取り付きまでの偵察予定なのでゆっくり出発。雪は多いけれど弛んでグサグサのトレースに足が取られる。最初の難関は渡渉。トレースがある方は踏み外すとやばい場所だ。安全そうな所を選び、S間さんのストックを借りて何とか渡渉した。
▲渡渉
沢に出ると周囲はデブリだらけ、これだけ雪崩れるんだと感心する。雪は全て落ち切ってるのでもう雪崩の心配はないだろう。
▲全部デブリ
▲錫杖岳
岩小屋には先行パーティーのテントが張ってある。天気はよさそうなので適当なところに幕営する。昼なので上まで抜けるにも微妙な時間。とりあえず取り付きまで行って、行けそうなら登ろうと全装備を担いで出発。下山してきたパーティーに様子を伺おうと見ると、大阪の知り合いだった。聞くと、先行パーティーがなかなか進まず、落雪、落石で怪我しそうになったので撤退したと。また、氷が張ってなくてアイスにならないから、クライミングシューズを持ってきたら良かった、なんて話を聞いてガッカリする。取り付きに着くと2パーティー登っており、先行は上部を登っている。もう1パーティー取り付きに居たが、まだハーネスを着けていないので先に登って状況を見る。
▲岩肌しか見えない3ルンゼの取り付き
1ピッチ目は雪に埋もれているが、登れそうなのでそのままノーロープで雪稜を登る。多分2ピッチ目と思われるところで岩が出てきたので、念のためにロープを着ける。腐った雪稜は登りにくいので岩稜を登りながら何とか3ピッチ目の支点あたりまでS間さんリード、ちびサンボ、T尾さんの順で登った。ここは氷が張っていればどちらでも登れそうだ。右はカムとジャミングで登れそうだが足が無い。左の方がやや登れそうだが垂壁。懸垂で下降してきた人に「ここはどうやって登ったのですか?」と聞いてみた。左の垂壁を登るらしい。よく見るとハーケンがそれなりに打ってあった。しかし、バイルは全く役に立たないし、足元は微妙なバランス。3ピン目を取れずにS間さんが落ちてきた。ちょっと難しそうなのでアブミを出す。その後もかなり手こずっていた。セカンドの私は最初フリーでトライしたが、やはりバランスが取れずに残置のアブミを使わせてもらう。その次も全く足が届かない。「あー、もう一つアブミが欲しい!!」と唸る。ハーケンをフットスタンスにするためにアイゼンの前爪を掛けようとしたが、デュアルなので片方が邪魔して引っかけられない。上部にあるグラグラのハーケンを頼りに「折れるなよ」と声掛けながらAOして何とか登ったが、腕がパンプ寸前になった。サードのT尾さんもアブミが回収できないと、奮闘しながらも何とか登ってきた。次はトンネルをくぐる所だが、トンネル前後の雪稜が非常に悪い。リードは空荷で登っているのでトンネルは問題なかったようだが、セカンド、サードはザックを背負ってるうえ、狭いトンネルの中で回転しないといけなかったので苦労した。
▲トンネルを抜けても穴だらけの雪稜
次はようやくダブルアックスが使えるベルグラであるが、ビレー点は頭から水を浴び続ける辛い場所だった。ベルグラを越えて雪稜手前の乗っ越し部分はアブミを使った。また、その次の棚に上がる所も、凍っていればアックスが利くはずだが、腐った雪なので全く利かない。ここもヒーヒー言いながらAOして登る。S間さんはよくリードを頑張ったなぁ~と改めて感心した。その後は雪稜を登ってコルに到着。ここからは反対側の槍穂高の稜線が良く見える。絶景にヤッホーだ!!
▲3ルンゼのコル
日が暮れる前には降りないといけないので、水分補給と写真撮影だけして懸垂に掛かる。が、木にスリングを掛けただけの支点と、リング2個に古いスリングを掛けただけの支点、テンションを掛けたくない支点ばかりだ。しかしハングしているので、嫌でもテンションを掛けないといけない懸垂を三回した。下に着いた時からヘッドランプを着けて幕営地に戻った。この氷の状況では明日はどこも登れないし、本日の登攀でそれなりに満足したので、明日は下山だけの予定にし、アルパインクライミングの話を肴に酒を飲んで就寝した。
正直、内容としてはアイスでもなく、雪壁登攀でもない中途半端な結果になったと思う。ただ、今回の場所を決めた時から、折角だからピークに抜けるアルパインをしたいという思いが皆にあった。それを達成できたのは良かった。予想以上に氷が張ってなくて苦労したが、アイゼンアブミのトレーニングをしていたのが今回の登攀を成功に導いたと話していた。やはりアルパインをやるなら、どんな状況でも対応できるように日々トレーニングしておかなければならないと感じた。次回は是非、氷の張った時期にトライしたいですね。