4人2パーティーでこのルートを登ろうと夏頃から決めていた。しかし強い台風19号が接近中のため木曜日の段階で中止になった。週末はフリーでも楽しもうと思っていたが、10日16時過ぎにベタコさんから「日曜日晴れそうだから行きませんか」とメンバー3人に連絡が入る。私は木曜日に中止になった段階で装備を片づけてなかったので、定時で仕事が終われば行けると判断して即OKした。帰って準備していたが他の二人は諸々の理由で不参加、結果二人で行く事になった。
10日、新幹線に飛び乗り新横浜へ。ベタコ車で尾白川渓谷駐車場へ向かい仮眠。
11日(晴れ)、3連休前だが台風の影響か車は少ない。本日の予定は七丈小屋で幕営し、アプローチを下見。ベタコさんは黒戸尾根を登るのは初めて。私は昨年黄蓮谷を登った時に経験済みなので「長いよ~嫌になるくらいしんどいよ!」と登る前から何度も言っていた。吊り橋を渡って少し登ったところに手書きの看板が。「台風19号の影響で本日は小屋もテントも泊まれません」と書いてある。何でこんな中途半端なところに書いてあるんだ。駐車場の入口に書いといてくれよ!と思ったが、ダメなら8合目岩小屋でビバークすればいいので止める気持ちは無かった。ただ、ビールも売ってくれないんかなぁ~と違う心配をしていた。5合目ですでに何張りかテントが張ってある。七丈小屋がダメだからここに幕営して登るらしい。とりあえず七丈小屋まで登る。小屋で聞くと「今日は泊まれますよ。台風が遅くなったから。そのかわり、明日は絶対に降りて下さいね。」と。良かった。ビールと水を調達して小屋より200m程上のテン場へ。幕営後、取り付き偵察へ。8合目岩小屋からは、以前登った事のある人にもらった手書きのトポ図を頼りに降る。基本的には赤、黄、白のテープか古いスリングが付いているのだが、間違いやすいところ2か所書いてあったところを案の定間違う。Aフランケ頭の岩小屋へ出てしまった。戻って、あっちこっち探す。沢の方へ降るフィックスロープを見つけたところで15時半。これ以上は暗くなるし、大体行けるだろうと判断して戻る。2か所のテン場はいっぱいになっていた。疲れていたので早々に食事して就寝した。
▲赤石沢Aフランケ全容
12日(晴れ)、3時起床、周囲も何となく起きだしている。頂上でご来光を見るらしく準備していた。真っ暗な中8合目まで登り、昨日下見した通りに降るが何回か間違いそうになる。長いフィックスロープを降るところからは歩いてない。フィックスを降り、岩を巻くようにトラバース。そこから迷ってウロウロしたが、まだまだ降るルートを発見。何度もフィックスを降り、岩伝いにトラバース。ドドーンと岩場が見えたのでここかと思ったが、Aフランケ右のルートらしい。ここからルンゼのフィックスを降り、トラバースしたところがAフランケ赤蜘蛛ルートの取り付き。テン場から2時間も掛かってしまった。14時には終了したかったので早々に準備して取り付く。
▲1ピッチ目 足ブラスタート
1P(ちびサンボ) 垂壁の人工ルート25m(A1):足ブラアブミで最上段に乗っても2ピン目は遠く届かず。ベタコさんと交代するがベタコさんは足ブラアブミが苦手。私が土台になり、乗り込んでヌンチャクだけ掛けてもらって再びちびサンボがトライ。何とか2ピン目にアブミを掛けてクリア。その後も微妙にピンが遠く、何度もアブミの最上段に乗らないと届かないのでしんどかった。最後はフリーで抜けるがアブミの回収を忘れてベタコさんに回収してもらった。2P(ベタコ)ジェードル25m(V):唯一のフリールート。本当は40mぐらいのルートだが短く25mで切った。
▲3ピッチ目クラック
3P(ちびサンボ)ジェードル40m(A1、IV)(5.10b):コーナークラックと右壁にもクラックがあり、最初はフリーでも登れ
そうだが微妙に支点が遠く怖いので、カムを使いながらA1で登る。途中からコーナークラックから離れてフェースのクラックへ移るのが遠くて怖かった。ベタコさんはところどころフリーで登ったようだが「こんなん10bは嘘や!」とボヤいていた。
4P(ベタコ)V字ハングを左から越え、スラブ右上40m(IV、A1):ハングまでをアブミで乗越した後はスラブと草付の階段状のところをフリーで登る。大テラス手前の立木でビレー。そこから大テラスまでの5mをちびサンボが歩いて登りロープを引き上げる。
5P(ベタコ)かぶった凹角からテラス、25m(A1、IV)(V):出だしのクラックを乗っ越したところに支点がある。そこか
らスラブ状のところを左へトラバースし、ジェードルを登る。トポには40mと書いているがもう少し短かった。
▲6ピッチ目の壁
6P (ちびサンボ) クラック人工40m(A1):「次、ちびサンボさんやで。アブミビレーのとこや」と。おおっ、マジで!終
了点は遠いし長いなぁ~と不安になる。しかし順番では私だし、アブミは私の方が得意だから頑張るしかない。「行きます!」2番以下のキャメロット2セット、ナッツセット、リンクカム、ヌンチャク16本を持って登る。最初はボルトやハーケンがいい間隔であるが、やはり私には遠くアブミ最上段に乗り込みながらアブミの掛け替え。下部はこまめにヌンチャクを掛けたがこれではギアが足りなくなる。また、途中は完全にピンが無い。カムやナッツでランナーを取りながらアブミに乗り込み、ヌンチャクを間引きながら登る。残置のカムが何個かあったので、それも有難く使わせてもらった。だんだん、アブミの最上段にも乗れないくらいしんどくなる。何度かフィイフィイで休憩するが先はまだまだ続く。途中で「交代してほしいなぁ~」と思い滅げそうになったが、頑張るしかなかった。終了点はリング3個、これでアブミビレーかぁ。
▲6ピッチ目人工ルート・アブミビレー中
何となく不安だが仕方ない。左のクラックに残っていたカムを掛けてそこにセルフを取った。アブミビレーはかなりしんどい。足が痺れそうになるのでアブミに完全にまたがり太ももハーネスみたいにしたり、体制を頻回に変えてビレーした。ベタコさんがフォローで登ってきたが、一か所カムが外れないと騒いでいる。ガチャガチャ動かしてしまったらしい。「どーやって外すん!!」と焦っていた。ディバイスを片方ずつ動かしてナッツキーを噛ませば外れると上から指示する。何とか外せてホッとした。残置ギアの仲間入りにならなくて良かった。
▲7ピッチ目 目の前のスーパークラック(11台)でなく、右の恐竜カンテへ抜ける
7P(ベタコ)カンテを右に回り込みフェースの直上30m(A1、IV-):2ピン目が遠い。ベタコさんがスリングを長めに伸ばしてくれていたのでアブミの最上段に乗るのが楽だった。恐竜カンテは絶景だが、時間を気にして上ばかり見ていて景色を楽しむ余裕が無かった。最後はフリーで乗っ越さないといけないので、ベタコさんはアブミを残置して登っていた。それを回収して終了点へ。
▲7ピッチ目 恐竜カンテ
8P(ちびサンボ)階段状岩場からスラブを登り大テラスへ30m(A1、IV-)(10a):スラブはとてもフリーでは登れなかった。
▲8ピッチ目終了点。ようやく景色を楽しめる。紅葉が綺麗
9P(ベタコ) ブッシュ交じりの岩場70m(II~III):藪っぽいところから岩場を抜けて直上。一応、ロープを付けていたので50mぐらいの所でいったん切った。II級ではないなぁ~と感じた。そのままブッシュをちびサンボが登るとAフランケ頭の岩小屋へ到着。ロープを引き上げベタコさんが登ってきて終了。
今日中に下山したかったので早々に片付け8合目まで登り返す。これが結構しんどかった。8合目からはダッシュで降り、テント撤収して16時には出発。私は真っ暗な中5合目まで降ったことあるし、そこから先も一般道だから真っ暗でも歩けると判断して下山。刃渡りを越えたあたりから真っ暗になる。景色は見えないのでジグザグと同じところを歩いてる感じ。「狐に騙されとんちゃうか」とベタコさんはブツクサ言い、半分キレながら歩く。確かに真っ暗なのでどこを歩いているのか分からないし、しんどいだけで面白くなかった。それでも20時には駐車場へ到着して今回の山行は終了した。
▲下山時、8合目からの景色
台風が来るからと行きも帰りも大急ぎの山行だったが、結果、岩場は貸し切り状態、下山時には誰もいなくて静かな山歩きになった。天候判断に苦しんだが、取り付きだけでも確認したいと思っていたので行けて良かった。体力があれば危険回避出来るし、チャンスも広がる。今回一番焦ったのは、1ピッチ目の2ピン目に届かない時だった。私は最上段に乗れるが届かない。ベタコさんは乗り込めたら届くが足ブラでは乗り込めない。事前情報でチョンボ棒があった方がいいと聞いていたのにすっかり忘れていた。その時はお互いに言わなかったが、取り付きで「敗退」の二文字が頭をよぎっていた。二人とも初見なので大変な思いをしたが、あーでもない、こーでもないと言いながらアプローチを探すのは楽しいし、完登出来た時の達成感は最高だ。こんなしんどい山行はなかなか出来ないが、次の目標を決めてチャレンジしていきたいと思う。
<今回の装備>
ダブルロープ50m×2、キャメロットC4、#2~#0.3まで2セット、#3×1、リンクカム#2×1、ナッツ1セット、60cmスリングで作ったクイックドロー×16本、アブミ等 (クラックが得意な場合、ギアはもっと減らせる)