黄蓮谷右俣アイスクライミング報告  (報告/ちびサンボ)


■日 程 : 2013年12月6日(金)夜発〜9日(月)

■山 域 : 南アルプス 黄蓮谷右俣

■参加者 :

ちびサンボ

I佐(須磨・リーダー)
■行動日程

6日(金):21時大阪集合、I佐車にて出発→0:30駒ヶ岳SA→2:00尾白渓谷駐車場着→仮眠

7日(土):(晴れ)7時起床→8:30出発→13:00黒戸尾根(刃渡り)→14:30 5合目小屋跡→取り付き下見→18:00就寝

8日(日):(晴れ)4:30起床、6:15出発、8:00黄蓮谷分岐→8:15坊主の滝→17:00アイス終了→18:30頂上稜線着→20:00七丈小屋→21:40 5合目小屋跡幕営地

9日(月):(晴れ)5:45起床→7:00出発→黒尾尾根下山→12:50駐車場着→20:00大阪着




アイスを始めて3年になるが、年に1回トップロープで登る程度。昨年、八ヶ岳の短いルートを初めてリードで登っただけでルートは全くの初めて。元々4人ぐらいで行く予定が3人になり,直前で2人になった時点で自信がないから止めたいと申し出た。しかし、もう一度調べて二人でミーティングし、いい機会だからチャレンジしてみようという気になった。長いルートになるのでワクワク、ドキドキ、緊張しながらの出発となった。

6日夜は駒ヶ岳SAで仮眠の予定だったが、思ったほど道は混んでなくてスムーズだったので尾白渓谷駐車場まで向かった。7日は5合目までなので焦る事もないだろうとゆっくり仮眠した。なのに、なぜか5時45分にI佐さんの目覚ましが鳴る。そこからは浅い眠りになり、周囲も準備し始め何となく騒がしいので目が覚める。黒戸尾根は夏も登った事がない。長いルートとは噂に聞いていたが本当に長くてしんどい。1600m前後から雪があり、刃渡りのあたりは部分的にアイスになっていてちょっと緊張した。ここから富士山や八ヶ岳が綺麗に見えてワクワクする。休み休み五合目小屋跡に到着する。後から来た4人パーティーは左俣へ行く予定らしいが、七丈小屋から入ると言っていた。私達はここで水が無ければ七丈小屋まで登ろうと考えていたが、何とか雪があったのでここで幕営する事にした。テントを張ってから取り付き途中まで赤布の目印をつけに行くが、何となく道が悪く先が途切れている。それでもここからなら何とか行けそうと判断してテント場まで戻ってきたら、すぐ近くに赤テープの垂れているのを発見した。そこから何となくルートが続いてるように見える。そこをじっと見ている私の視線にI佐さんが気付いてそのルートを降り出した。良く見るとちゃんと木に赤テープが巻いてある。これだと分かったので何とか行けるだろうと判断しテント場へ戻った。今日はお互いに疲れていたので明日に備えて早めに就寝。18時過ぎには寝てしまった。寝たのが早過ぎて1時半に「さあ、起きよか」とI佐さんが起きだした。「まだですよ」というとびっくりして時計を見直していた。ちょっと早く寝過ぎたかもしれない。もう一度寝なおし4時半に起床した。準備していると5時頃テントの横を過ぎる男女のパーティーがいた。右俣を登るらしい。その後も1パーティー通り過ぎた。今日はアイスに入る人が結構いるのかもしれない。私たちは1日で抜けて帰る予定だが、ビバークに備えて防寒具、シュラフカバー、ガス、ツエルト等も持って行くことにした。6時15分出発。赤テープで確認してあったところまでは順調だが、そこから先が良く分からない。先行は少なくとも2パーティーいたはずだからトレースがあってもおかしくないのに分からない。尾根で右へ降りるか左へ降りるか迷った。勘に頼るしか無く降りやすいルートを探しながら下降した。途中ナメ滝で氷の張ったところが出てきたのでアイゼンをつけて下降した。ブッシュを行ったり、アイス状のところを降ったりなかなか手ごわい。尾根の降りる方向を間違ったようだが何とかして谷底に降り立った。ここで一息。そこから進むといきなり大きな滝に出会った。これが坊主ノ滝か!とても大きて圧倒され、胸が高鳴った。そして私に登れるかなぁと不安になった。

▲坊主の滝
I佐さんにリードのお願いをした。1ピッチでは登れないので途中アイススクリューで支点を取った。そんなに難しくないのに何だか怖くて登りにくい。こんなんで大丈夫だろうかとまた不安になった。2ピッチ目を登って上を見るとナメ滝から延々とナメ床、滝が続いていた。そこから2ピッチほどコンテで登り、次の滝ではロープ確保した。そこで一息入れて休憩した。
ここが二俣だろうか?時間は10時半だった。しばらくコンテで登っていたが、ロープがじゃまになることもあったので一旦ロープを片付けた。トポと見比べてもどれが何の滝か良く分からなかった。ようやく最後の奥の滝で先行2パーティーを見つけた。15時頃だった。登攀終了後は暗くなる事が予測されたが、何とかトレースがありそうなのでビバークは考えずそのまま登る事にした。最後の滝は短いがバーチカル。疲れた体にはこたえる。
I佐さんも二段目の滝を超えて三段目にトライしていたが少ししんどそう。「ちびサンボちゃん、登れるか?」と言われたが「難しいかもしれません」と答えた。ほんなら巻くルートを行こうという事になってクライムダウンして左側へ巻いた。後1ピッチだが日が落ちてきたので寒さで手足が悴んでいる。

何とか登り終えたところで17時。先行パーティーの残したトレースの後まで進んで装備の片づけをしていると末梢に血が通い出したのかジンジンして手足が痛い。感覚があるから凍傷は大丈夫だな、と思いながら片付けた。ここから先は稜線を目指して登らないといけないが、もうすでに真っ暗。ヘッドランプの明かりと月明かりを頼りに、トレースを見失わないように、踏み外さないように慎重に登った。


登れども登れども稜線に出ない。時々、町の明かりに目をやる。「町は暖かそうだなぁ」と感じる。下を見ると真っ暗で先は見えないが傾斜は強いと感じた。ここで足を踏み外して落ちても真っ暗だから今日は探してもらえないなぁ〜何て事を考えながら登った。先が見えないから余計に長く感じる。気が遠くなりそうになりながら稜線に出る手前の尾根に出た。どうも喉が渇いて仕方ない。もう少しで頂上と分かったが休まないと進めない。休んで水分補給して稜線を目指した。登攀終了時から1時間半しか歩いてないのにものすごく長く感じた。頂上はすぐ目の前だが、下山と反対方向に見えているので頂上には登らず、頂上手前の岩の前で記念写真だけ撮って下山した。下山も延々と続きくたびれる。ウンザリしながら降りていく。ハシゴや鎖場を何箇所か通過して、ようやく七丈小屋へ到着。ここで少し暖を取る予定だったが、I佐さんが「もう下までええやろ」と言うので水だけ飲んだ。身体の中が暖まらないのは辛い。せめて何か口に入れないと元気にならないと思ったが食べる元気がない。タバコを吸いに外へ出ていた小屋泊の人が心配して、小屋番に少し休ませてあげてはどうかと話をしに行ってくれたみたいだが、小屋番は冷たく「ダメダメ。諦めて降りて」と手を振ってあしらわれた。そりゃそうだろうと思ったが、何とも冷たい言い方に傷つき精神的にも疲れてしまった。そこからはやたらとハシゴや階段が多く、しかしアイスバーンなのでアイゼンは外せず転ばないように気を使う下山だった。ひいひい言いながら5合目の幕営地へ着いたのは21時40分。本当にくたびれた。I佐さんと握手して、ああ,終わったんだなぁ〜と思いホッとした。晩御飯なんてどうでもよかったし、たいして飲みたいとも思わなかったが、ご飯を口にして元気になるとやはり飲みたくなった。ウイスキーを少し飲んで寝る事にした。翌朝も急ぐ必要はなかったのでゆっくり起きたが、早朝4時頃から通行する声がした。ゆっくり準備して8時頃出発。ここからまた長い黒戸尾根を下山。太ももが張って痛いのと靴擦れが痛い。太ももに力が入らないので滑ると転ぶと思って慎重に下山した。

▲五合目小屋跡から見た甲斐駒ケ岳
駐車場に着いたのは昼を回っていた。暖かいものを食べて温泉に入って15時頃出発した。道は混んでなくて思ったより早く帰ることが出来た。

何とも長い行動時間でした。15時間半というのは夏なら経験あったし、積雪期でも14時間程度なら経験はあったが、さすがにアイスの寒い中、長時間行動は辛くてしんどかった。終わった時、正直、アイスはしばらくもういいなぁとI佐さんと話していた。でも、帰ってくるとやはり登りに行きたいと思う。今まで1ピッチの短いルートしか登った事無かったが、アイスのルートはとても楽しい。アイススクリューの扱いが慣れてないので今回はI佐さんに全部リードで登ってもらったが、練習してスクリューを手早く扱えるようになりたい。


〈須磨労山 I佐感想〉

二年前に登った時は、最後の滝を高巻いてとんでもないラッセルとなってしまったので、今回はスッキリと登ってみたかった。前回高巻いた滝は二段になっていて、下段は右から左へ斜上気味にトラバースして、また右へ斜上する。上段の方は中央を登ると氷は立ってくるので、これも左斜上トラバースして、次は左側の岩とのコンタクトラインの雪面を登った。セカンドが登りきると同時に暗くなりギリギリセーフだった。以降、ロープを解いてトレース跡を追うように登り1時間30分ほどで頂上の少し下側に飛び出た。(18時30分)ガイドのようにまだ明るいうちに頂上に立つ事は出来なかったが、五合目のBCから出発して、帰ってくるまで15時間歩き通せた事は、まだまだやれるという自信になった。山行を振り返ってみて、時期的には前回の経験から、雪が積もる前の氷結状態の良い12月の第一週ぐらいの方が良いと判断して今回の山行を計画した。若干、年によって状況は異なると思うが、今回、私たちの他にも数パーティーが入山していた事をみても、この時期で正解だったと思う。

ロープはダブルロープを用意したが、最初の坊主の滝以外は1本で登った。場所によってはコンテやロープを解いて行動した。足並みが揃っていればロープは1本で良いと思う。五合目から谷への下降路は旧小屋跡の広場よりすぐ左の樹林帯を下降する方が良い。目印のスリングが樹木の枝に巻いてある。今回、五合目からの出発を下降ルートが分かりにくかったので、明るくなるのを待って出発(6時過ぎ)したが、下降ルートが分かれば5時頃出発した方が良い。右俣は技術的には三〜四級ぐらいの登攀能力があれば行けますが、標高差1,200mの登攀に加えて、五合目から谷への下降や、頂上から五合目までの標高差を加えると約倍近くの2,400mになる。これらを歩き通せる体力が要求される。

ちびサンボさん、次はあなたがリーダーで他の兵庫のメンバーを連れて行って下さい。

メラピークKOBE(兵庫県労山に所属する神戸の山岳会)

妙義山 OYAJI倶楽部山行
〜痩せ尾根と奇岩の岩場を愉しむ〜
八ヶ岳アイスクライミング

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