屏風岩雲稜ルート、滝谷ドーム中央稜クライミング  (報告/ちびサンボ)


■日 程 : 2012年9月13日(木)夜〜17日(月)

■山 域 : 屏風岩+滝谷

■参加者 :

ちびサンボ

K部(山歩渓)
■行動日程:

13日(木):22:30新大阪発の夜行バスに乗車→上高地着(5:00)

14日(金)晴れ後時々雨:K部さんと合流し5:50上高地出発→横尾着(7:50)→T4尾根取り付き(9:30)→T4、雲稜ルート1ピッチ目(11:50)→扇岩テラスで休憩→4ピッチ目(14:30)→7ピッチ目(17:30)→8ピッチ目の支点でビバーク(18:15)

15日(土)晴れ後時々雨:5時起床→登攀再開(5:45)→登攀終了(6:20)→屏風の頭(8:35)→涸沢ヒュッテ着(10:20)→テント設営・休憩→北穂高岳へ出発(13:30)→北穂高岳南稜テント場着(16:15)

16日(日)晴れ:起床(3:20)→懸垂地点着(5:25)→滝谷第3尾根・ドーム中央稜取り付き着(5:50)→登攀開始(6:20)→登攀終了(9:10)→北穂高岳テント場発(10:50)→涸沢小屋(12:15)

17日(日)晴れ:起床(4:00)→出発(5:35)→横尾着(7:30)→嘉門次小屋着(9:20)→上高地着(10:50)→
松本19時台の電車へ乗車→新幹線で寝過ごし23時過ぎ岡山着→岡山泊→翌朝帰神




屏風岩雲稜ルートは昨年初めてチャレンジしたが力量不足で敗退した。今年は雲稜ルートを登りきって涸沢に抜けようと計画した。本当は屏風岩を抜けてから前穂北尾根を8峰から全部登って北穂に行き、滝谷を登って帰りたかった。ただ、それだけの水を担いで登攀する自信が無かったので、涸沢をベースにして滝谷を登り最終日は前穂北尾根を5・6のコルから登って帰ろうと計画を立てた。

▲屏風岩
14日

5時過ぎに上高地へ到着。K部さんとはここで待ち合わせ。すでにたくさんの登山者が準備していた。軽く朝食を済ませ、水の確保をして6時前に出発した。今日は出来れば屏風岩を上まで抜けたかったので足取りが速くなる。K部さんが早歩きすると私は小走り状態。途中、歩く事に疲れて嫌になるので時々景色を眺めて立ち止まりながら、上高地から2時間で横尾着。ここからは屏風岩が見えるのでちょっとワクワクする。梓川は水量が少なく渡渉も昨年みたいに難しくはなかった。しかし、水の冷たさは変わらない。足つぼマッサージも苦手な私には裸足の渡渉は辛い。9時半にT4尾根取り付き到着。身支度を整え10時頃K部さんリードでスタートした。1ピッチ目(30m・IV)は、ザックが重いと直上はしんどいので、やや左から巻きながら右へ戻りクラックを登った。2ピッチ目(30m・V)リード、昨年もここはリードで登ったが、最初に少しハング気味の所を登る時にザックで体が振られそうになり怖かった。カムを掛けてAOして登った。 3ピッチ目(100m・II)、コンテで登る。4ピッチ目(30m・III)フォロー、チムニーから上部はスラブの登り。11半頃T4へ到着。腹ごしらえと心の準備をしていざ登攀開始。昨年リードで登って無い方をお互いにリードで登れるように、つるべで登る事にした。1ピッチ目(50m・V)、ここは2ピッチに切って登るのが一般的なので、最初の25mをちびサンボがリード、後半のハングをK部さんリードで登ってもらう事にした。ハングの所はAOでもしんどい。「ウォー」と唸りながら腕力を使って登った。ちょっと変に力を入れ過ぎて肩が痛い。アブミを使えば良かったと後から気がついた。2ピッチ目(40m・IV+)フォロー、ピナクルテラスから右の細かいフェースの登り。かなり右から登れば簡単らしいが、右へ行く所の足元が崩れているので行けない。昨年同様に直上してから右へトラバース気味に登って扇岩テラスへ、アブミを使って登った。ここでちょっと悩んだ。後4時間で暗くなる、暗くなる前に登りきらないといけないがまだ半分以上ある。軽荷なら登れるが重荷だから予想以上に時間が掛かると思う。微妙な時間だなぁ〜と思ったので「どうするの?」と聞くと「予定通りや、大丈夫」と。やっぱりなぁ〜。仕方無いので腹ごしらえをしっかりして登る事にした。

▲雲稜ルート3ピッチ目
3ピッチ目(35m・A1)リード、ボロイ支点を信じてアブミに乗り込むが、2か所ほどグラグラの支点があった。怖いので左のフリーの支点も使いながら登った。ここからなら懸垂で扇岩へ戻る事も出来る。ここで、念のためにもう一度確認の意味で時間を告げたが「予定通り」と返答された。「ああ、行くしかないか」と諦めた。4ピッチ目(20m・IV+、A1)フォロー、前傾壁からバンドのトラバースだが、壁にザックが当たって振られそうなので這うようにトラバースした。5ピッチ目(40m・IV+)リード、ルンゼから右に渡ってフェースを登るが、ロープが屈曲して登りにくかった。途中で切れば良かったのだが、切らずにロープいっぱいまでフェースを登って、少し被った岩の下でビレーをした。この頃から雲行きが怪しくなり、K部さんが登ってくる途中から雨が降りだした。「嫌だなぁ〜」と思った。6ピッチ目(40m・V+)フォロー、スラブからルンゼ状の所を登るが、最初から岩が滑ってAOでも登れない。アブミを出して登った。7ピッチ目(30m・IV)リード、そろそろ暗くなりだし支点が見えにくくなってきた。ここもルンゼ状のスラブ。草も岩も濡れてアブミを使わないと登れない。本来は人工ルートではないから次の支点までが遠く、滑って登れなかった。4ピン程取ったがこれ以上は無理と判断して、降てリードを交代した。K部さんも支点が見えないと言ってヘッドランプを着けて登った。8ピッチ目、最後のピッチのはずだから、ルンゼから左上しないといけないはずだが全くルートが見えない。支点も見つけられない。K部さんがちょっと登ろうと試すが登れそうに無かった。「ちょうど一人ずつ座れそうなスペースがあるから、ここでビバークする?」と聞いた。「そうやなぁ〜」と珍しくすんなり応じてくれた。幸いに雨が止んでるのでビバーク体制を整えやすかった。K部さんは何か食べろと言うがとてもそんな気分になれなかった。やっぱりあの時止めれば良かった。不安が的中した。こんな体制でビバークする事になるなんて・・・と悲しくなって涙が出てきた。ここは幸いにもビレー点が2段になっていたので、上の段にK部さん、下の段に私が座る事にした。ハーネスとザックは2か所から支点を取って絶対に落ちないようにした。フリース・ダウン・雨具と、着込める物は全部身に付けた。夜中には寒くなるので、サバイバルシートも身にまとってツエルトを被った。お尻にはロープを敷いて、背中にはテントマットを当てた。ザックは足置きになるようにぶら下げ気味にして、座れるスペースを確保した。外傾した場所なので、ちょっとづつ体がずれて落ちそうになる。それでも1時間ごとぐらい眠れた。時々パラパラと雨が降ったり、星が出たりと天気は不安定だが風が無かったので思ったほど寒くなかった。熟睡すると体が冷えるからか寒くて目が覚める。パンを食べたりお茶を飲んだりして温まったらまた眠った。


15日

5時、ツエルトから頭を出すと外が明るくなってきていた。物を落とさないように、忘れ物をしないように注意しながら支度し、5時45分登攀を再開した。約20m登った所に終了点があった。これが最後のピッチと思っていたが、最後に脆い草付きのルンゼがあった。9ピッチ目(30m・II〜III)フォロー、草は濡れているし岩は逆層なので非常に登りにくい。灌木帯に着いて登攀を終了した。こんな広いいい場所があったのになぁ〜と苦笑いをした。ここからの道も悪いと聞いていたのでそのままロープを着けて登った。約1時間で屏風の頭に出た。

▲屏風の頭
絶景だ!ビバークで案外眠れたので元気いっぱい!水さえあればこのまま前穂北尾根を8峰から登れるのになぁ〜と思った。少し景色を楽しんで、パノラマコースを通って涸沢へ向かった。途中の分岐で奥穂から単独で降りてきた人に会った。昨夜は風と雨でテントが飛ばされそうだったと。私達のビバークの方が案外快適だったのかもしれない。途中、ブルーベリーとイチゴを摘み食しながら、11時前に涸沢小屋に着いた。適当な所にテントを設営して、まずは生ビールで乾杯。おでんを食べてのんびりしたが時間が経たない。「このまま飲んだくれてても仕方ないし、明日の為に北穂まで登る?」と聞いてみた。「どっちでもええよ」との返答だったので登る事にした。広げた荷物とテントを片づけて13時半に北穂高岳のテント場へ向かった。ここは延々と登らないといけない。いったん休憩モードに入った体と心にはきつい登りだ。K部さんは途中で木の枝にザックが引っ掛かり「ああ、もう嫌や!これで2回目やで!」とブチ切れている。荷物を少し持とうかと提案するが「ええ、大丈夫や」と断る。でも、しんどそうでイライラしている。北穂へ登ろうかと提案したのは私だが、賛同したのはK部さんだ。言う事は聞かないでイライラしているK部さんに腹が立ってきた。一緒に歩きたくないから少し距離を開けた。おまけに雨が降り出した。「全然面白くない!!」と聞こえないように叫んだ(つもりだが、聞こえていたらしい)。腹が立つからこのまま降りてやろうかと思ったが、明日の滝谷の為に我慢して登る事にした。ゆっくり後ろを歩くのも嫌になったので、途中でK部さんを追い抜いて、姿が見えなくなる先まで歩いた。鉄のハシゴを登りきった所で少し休憩した。雨も小降りになり虹が出ていた。景色を見ていると少し心が落ち着いた。その後は一緒にゆっくり歩いた。出発から約3時間で北穂高岳南稜のテント場に着いた。2つ程スペースが残っていてホッとした。K部さんは疲れているので、テント場の手続きと水調達の為に私が小屋まで登った。小屋は大混雑だった。一つの布団に3人ほどで寝ないといけないらしい。テントの方が快適だ。


16日

3時20分に目が覚めた。周囲のテントもちらほらと起きだしている。皆が滝谷に行く訳じゃないだろうけど、早く準備しないといけないと思った。取り付きまでのルートは、小屋の前に張り出しているトポで確認していた。暗いうちからスタートしてるのでヘッドランプの明かりを頼りに歩いているが、K部さんのヘッドランプがやけに暗い。「それ、点いてるの?」と聞くと、電池が切れかかってると。信じられない!準備不足も甚だしいと、また腹が立った。涸沢岳への縦走路で鎖場を降り切った所からルートが分かれる。ちょうど先行に1パーティー歩いていたし、トレースがしっかりとあって分かりやすかった。しっかりとした懸垂支点があり準備するが、ここでもロープが絡まってすんなり捌けなくて時間がかかった。何だか朝からイライラする事ばかりだ。懸垂はちょうど25mで、50mロープいっぱいだった。そこからT2まで少し登り返した。取り付きには先行パーティー1組だけだった。ここの取り付きは日が当らないから寒い。体を動かして出来るだけ体が固まらないようにして待った。待ってる間に次々と登攀者がやってきた。昨日怒りながらも北穂まで頑張って荷上げして、早出して良かったと思った。

▲滝谷第3尾根 ドーム中央稜1ピッチ目
1ピッチ目(50m・IV)フォロー、凹角の中のクラックからチムニーを抜けるが、チムニーはザックが引っ掛かり登りにくい。クラックの奥にホールドやスタンスがあるので、奥へ入らないと登れない。いったんザックをビレーループに掛けて引き上げる感じでチムニーを抜けた。2ピッチ目(20m・V)リード、やさしいリッジからカンテ左のスラブを登りテラスとなっていた。リッジを登った所で正面のスラブにハーケンがある。「これ、私のリーチやとしんどいなぁ。ホールドもスタンスも細かいなぁ。アブミを持ってきたら良かったなぁ。」と悩んだ。AOしながら3ピン目までを取ったが、ザックを担いでフリーでは登れないと思った。スリングをアブミ代わりにして登ろうとしたり、少し戻ったりと繰り返し、諦めて降りかけた時に右に足台になりそうなピナクルを見つけた。そこまで降りてカンテの右側を覗くとハーケンが連打されていて、ホールドもスタンスもたくさんあった。「何や、これを登るんやったんや。間違えてた!」と気がついた。ああ怖かった。3ピッチ目(40m・I)フォロー、リッジの中のガレた岩場を登る。4ピッチ目(40m・IV)リード、凹角から上部のフェース、クラック、チムニーを越える、変化に富んだ楽しいピッチだった。5ピッチ目(40m・V)フォロー、ビレーポイントから凹角に入って登るが、ロープが屈曲してロープが出ないと叫んでいる。どうにか出来ないかと叫ばれるが、こっちでは引っ掛かってないのでどうにも出来ない。凹角下でピッチを切って登り直す事にした。最後のハングは細かく足を上げて行けば何とか登れた。9時10分に登攀終了した。

▲第3尾根頂上

▲滝谷ドーム第3尾根から見る槍ヶ岳方面

▲北穂高岳から見る滝谷

▲前穂高岳の稜線
第3尾根からの景色は最高だった。テン場へ戻る途中の尾根を登っているパーティーがいた。ちょっと面白そうだから時間もあるし登ろうかと思ったが、5人パーティーだったので諦めた。さて、今日はどうするかと考えた。槍ヶ岳まで歩いて、明日、子槍に登って帰ろうか。常念岳に行った事無いから常念岳を目指そうか。など色々考えたが、何となくしっくりこない。前穂北尾根も二人とも登った事あるし、何となく今回の山行は全てやり遂げた感があった。このまま嘉門次小屋まで降りて岩魚と骨酒でも飲もうかという事になり、早々に降りる事にした。下山途中で嘉門次小屋は何時までやってるんだろうか、ギリギリの時間になりそうだ。だったら涸沢でテントを張るほうがいいだろうという結果になり、涸沢小屋で生ビールと枝豆で乾杯する事にした。涸沢にテントを張り、涸沢ヒュッテのテラスでのんびりしていると山歩渓の槍ヶ岳縦走メンバーと遭遇した。ここからは宴会モードになり、ワイン、日本酒、ビールで乾杯した。

▲涸沢ヒュッテにて
後ろのテーブルの人が「私達も今日、滝谷を登ってきましたよ」と滝谷の話になり、どこからきたかの話になった。そこで会の名前を言ったら「ホームページで『ちびサンボ』って人居ますよね」と言われたので、「私です」と答えたら、えらく盛り上がって話に花が咲いた。三重県で山ショップをやってるメンバーでした。明日は降りるだけなので、暗くなるまで飲んで騒いだ。


17日

5時半集合し、山歩渓のメンバーと一緒に下山した。途中、屏風岩の見える所で自分たちの登ったルートを確かめるが最初はよく分からなかった。梓川渡渉の辺りに来て、ようやく雲稜ルートの全容が分かった。あんな所を登ったんだと感心した。そして、嘉門次小屋で岩魚と骨酒を堪能して、上高地で温泉に入り帰った。

▲嘉門次小屋
帰りのバスは予約してなかったので、松本からの指定席は3時間待ちだった。松本で飲んで食べて待って、その後、新幹線で熟睡して岡山まで行ってしまった。その日に帰れず、翌朝始発の新幹線で神戸に帰った。

軽量化の為に、シュラフ・シュラフカバーは止めてシュラフカバー代わりにサバイバルシートを使ったが、中で蒸れて水滴で濡れて良くなかった。テントマットは銀マットを肩からお尻の長さに切って持って行ったが、これは結構快適だった。40Lザックで20kg以下になるようにしたが、K部さんは共同装備を全部持ってくれたので25kg以上になっているだろう。大変だったが何とか登れるもんだと思った。錫状岳の時にも思ったが、上まで抜けて全容を見ると気持ちいいし達成感がある。また、次はどこをどう登ろうかと夢も膨らむ。K部さん、どうもありがとうございました。

メラピークKOBE(兵庫県労山に所属する神戸の山岳会)

赤木沢 「八ヶ岳・大同心雲稜ルート」
1本のルートで繋がる!

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