▲霧が晴れて眼下に雲海が現れた(杓子尾根の取り付き付近で)
猿倉台地まで
ヒマラヤを目指すトレーニングとして杓子尾根を登り、雪上トレーニングを行なう予定で出発した。天気が悪くて出発日を延期しての出発だった。塩尻駅でK藤と合流して道の駅白馬で仮眠した。心配した天気だが今のところ雨は降っていない。朝起きると曇っているが東の空は明るい。二股で車を止めて林道を歩く。猿倉までの歩行は準備運動にちょうど良い。猿倉から雪の斜面となりトップを交代して歩く。山はガスで見えないが下部は見通しがよくテント場までは快適であった。猿倉台地は長走沢の右岸にある広く緩やかな斜面である。下部は樺の木の疎林であるが上部は広い雪原である。そして長走沢上流部は杓子のジャンクションピークに突き上げている。ここからはジャンクションピークと白馬岳の眺めがよい。
▲尾根の取り付き斜面を登りきったところに着いたなおみ
引き上げのトレーニング
テント設営後に近くの斜面で三分の一引き上げのトレーニングを行なう。これは氷河上でロープを結んで歩いている時にクレバスに落ちたパートナーを引き揚げるためのものである。トレーニングは二人でロープを結び、一人が斜面で荷重することから始めた。最初は設置したスノーバーの支点を利用して引き揚げたが、その後は支点をセットする作業から始めた。パートナーが落ちると当然にロープが引かれる。ロープの伸びがあるので衝撃は緩和されるが、踏ん張らないと倒れてしまう。倒れたらピッケルで制動して体が引っ張られるのを防ぐ必要がある。そして支点を構築してロープをその支点にセットして荷重から脱出する。その後にユマールや滑車を使って引き揚げる。この作業を一人で行なう。引き揚げ開始までに15分以上かかっている。これを交代で各自が2回すると結構時間がたった。作業は早くできるようにしないといけないが手順を間違えないようにすることが肝要である。間違えると不可逆的になって行き詰ることもある。作業を終える頃には寒くなってきた。各自の到達はまだ実用レベルとは言いがたい。さらに練習が必要だ。
▲杓子尾根の下部は広く緩やかな斜面
ジャンクションピークが中央に見える 踊るS水
杓子尾根
翌日は杓子尾根に出発だ。朝5時半に出発するときは尾根がガスにつつまれて視界がない。ガスは晴れるだろうと思っていたが歩き出すと急速に視界が良くなってきた。尾根のとりつきに着くころには下部に雲海を見るようになった。尾根へは1800mピークに近いコルの上部を目指した。広い斜面を登っていくとトレースがあった。よく見るとはるか上の斜面に登山者らしき姿が見えた。未明に杓子尾根末端の林道から忠実に登ってきたのだろう。雪は足首まで沈む程度であったがトレースに入ると楽になった。杓子尾根はトレースがないと思っていたのだが。K藤の調子が出ない。最近体調がすぐれず山にいけていないため体力が落ちているとのことだ。結局はその単独行者に追いつくことはなかった。
杓子尾根は森林限界を越えて上部に行くと部分的に急な斜面があり雪が硬かった。そこをアイゼンの前爪とローダガーポジションで登るとナイフエッジであった。下りは手間がかかるだろうと思った。ジャンクションピークに着くと展望はいっきに開ける。杓子岳の雪庇が顕著である。ここから引き返すことにした。下りに時間がかかるだろう。ジャンクションピークの少し下からは急傾斜でやせているのでいきなり緊張を強いられる。去年来た時はここでロープを張ったのだが今年は張らなくても大丈夫そうだったのでそのまま慎重に下りる。双子尾根との分岐から下の急斜面は雪が硬くピッケルのシャフトが入りにくいのでロープを出した。ココノールが確保してS水が先行した。固定したロープをなおみ、K藤の順にバックステップで降りる。ロープにはフリクションノットをセットし、さらにカラビナも通してある。その下に続く短いナイフエッジは登りのルートを迂回することでロープを使わずにすんだ。これらで時間を短縮できた。それで思った以上に早くテント場に帰ることができた。雪稜登下降の良い練習になった。天気は上々でテント場から今日のトレースがかなり上部まで見えた。杓子尾根は部分的には双子尾根よりも緊張する。風がほとんどなくて良かった。
帰る日も5時30分頃に出発して斜面に行った。まずは滑落停止訓練だが斜面の雪が軟らかくて滑るスピードが出にくい。それでも一通りの訓練をした。その後はロープを固定して登高器を使用した登りの訓練だ。それが終わる頃には雪はますます軟らかくなっていた。テントを撤収しての朝の下山はすがすがしい気分である。林間を足早に下った。風呂に入り、そばを食べて、ヒマラヤの食糧計画を話し合った。
感想
▲やせた尾根から白馬を望む
▲ジャンクションピークにて
なおみ
昨年ヒマラヤにむけて、雪山を始めたばかりだったので、アイゼン歩行もままならず、新しい冬靴で、二股から猿倉までの林道で大きな靴擦れになっていた。双子尾根の登りは必死についていき、なんとかジャンクションピークまでたどりついた。山頂までもう少しだったが体力がなかったことや、下りの不安から、ロープを六回も出してもらった。でも、その時の雪山の景色の素晴らしさ、美しさは忘れられないものとなっていた。今年もあの景色に出会えると思うと期待でワクワクしていた。1日目、猿倉台地で1/3引き上げ練習をしたが、前週に練習していたにもかかわらず、自己脱出にとまどってしまう。実際、雪上でおこなうと臨場感があった。氷河のクレパスで救出できるようしっかりと身につけなければと思う。2日目の朝、2時頃外にでると、月明かりで神々しい山々の全容がくっきり見えた。快晴の中、杓子尾根を登る。長い斜面を登って尾根にでると単独で登っている人があり、トレースがついている。その跡をたどるが、ナイフエッジも続き緊張感があった。みんな、しっかりした足取りで歩く。ジャンクションピークで休憩しながら眺める景色は最高、至福のひととき。S水さん晴れ女更新となった。今回もここまでとなったが、下りで時間を要するので仕方ないと思った。急斜面でロープ1回のみで下ることができた。硬い雪面での下り方など勉強になった。昨年より少し成長したかなと思う。3日目の滑落停止ではいかにピッケルを雪面にしっかりさすことが重要か確認できた。懸垂下降、ユマールでの登高練習もおこなえて充実した山行でした。できれば、来年こそ完登したいと思う。また、行きましょう。
▲下り斜面で雪が硬くてロープを固定した
S水
道の駅でのテント泊、ココノールさんの車からビール、K藤さんのザックからたけのこ(!)などが出てきて幸せな幕開けとなった。翌朝、雨の名残りはあったが、空が明るくなってきていることに期待して出発。林道歩きは単調だが、今回試した二重靴下とかかとのテーピングが靴ずれ防止になるかの実験のつもりで歩く。途中、雪もちらつく。猿倉の小屋につき、やっと林道が終わったことに安堵。ここからつぼ足で登っていく。ストックを持参したのでバランスがとりやすく、歩きやすい。
3分の1トレーニングは、初の支点構築からすべての流れ。やはり、人の重みに引っ張られて支点を作るのは難しい。しかし、一連の流れがだいぶ身についてはきた。ただ、トラブルはつきもの。
2日目。3時半起き、5時半出発。夜中から山並みがクリアになってきていたので期待。歩き始めて30分、振り返ると雲海と朝日。きれい!しかし、目の前は壁のようなルート。ココノールさんより、雪崩防止のため20メートル間隔で登ること、と指示を受け、緊張して登る。本番でも、このように、お互いに声が届かない距離で行動することがままあるんだろう。そのときに、自分で自分のことがしっかりできること、また急なことに対応したり仲間に連絡したりすることを意識していかなければ。K藤さんのサングラスは拾うことができてよかった。休憩後、先行のスキーヤーのラッセル跡にお世話になる。しかし、かなりの勾配と、途中しばしば深い穴が出現するので、時間がかかる。稜線に出てからは、ココノールさんの歩き方をしっかり見ながら真似をして登っていく。お手本がなかったら自分で適切な場所を適切な方法で登れるか?まだその点は不安が残る。何度か前爪で登る箇所があったが、アイゼンはきちんと効いていた。ぐるり360度のパノラマ、八方尾根から白馬主稜、妙高方面の山々まで見渡しながら歩くことができた。
下山時は、最初にフィックスロープを張る経験ができた。上で確保してもらってバイルとピッケルでキックステップで降りていくとき、知らないうちに傾斜の緩い向きに沿ってルートをずれていった。もっと周りを見ることが必要だと感じた。前日練習したスノーバーを使う実践ができてよかった。登り6時間、下り4時間の行動だったが、緊張感も持続しつつ楽しめたことが収穫だった。
3日目の滑落停止、ユマール、懸垂下降の訓練も、繰りかえし実践することがなにより重要だと実感した。本当に氷河で滑落したら・・・まだまだあやしい。
靴については、靴紐を長いものにし、靴下を2重にすることで足の痛み、靴ずれともなかった。
(ただし、最終日の林道歩きで、靴ずれになった。この日は、靴下は一重だった)
前回に引き続き、好天の中、予定のトレーニングをすべて実施できてよかった。K藤さんとも2回目の宿泊トレーニングでいろいろお話ができ、交流を深めることができた。蕎麦屋での話しあいで、だいぶ具体的になってきた(装備・食料のことが)ことが準備を前に進める助けとなった。
コンテや3分の1システムの仕上げなど、次回のトレーニングもよろしくお願いします。ありがとうございました。