マナスル登頂報告 その7 BCから登頂まで(4)



【5月17日】 C1 → C2


▲【雲海の上のC1】                  ▲【雪崩地帯の雪崩跡】
 朝5:00の外気温は−12℃で快晴ですが、C1より下は雲海です。昨夜から時々きつい風が吹いてテントを揺さぶり、雪崩の音も聞えて心配でしたが、明け方から風も弱まりホッとしました。7時過ぎにC1を出発して、登り出して直ぐの雪崩地帯のトラバース地点ではセラックの崩壊による雪崩の跡が生々しく、トレースを覆っています。 

▲【セラック帯の通過】


▲【C2に到着】
緊張の中で危険地帯を通過します。クレバス帯の急登では固定ロープも殆ど雪に埋まっています。それでも何とか順調に、11時にC2に到着しました。C2も掘り起こされたテントの頭が見えて、あちこち凹んでいます。我々のジャンボテントを掘り起こした跡も見えます。本体はズタズタで使えないけれど、中にデポしていたアイゼンや食料などは先発隊が何とか取り出しに成功していたようでした。

▲【埋まったテント掘出し作業後の姿】
 14時頃まで雲海の上で快晴が続きましたが、それ以降時々ガスの中に入ります。昨日BCを出発した時のような薄い雲の中かなと思えます。 呼吸も落ち着いた15時頃に、テントの中で久振りにSPO2を計ってみます。SPO2は89〜92で心拍数は97〜103程度で、まずまずです。食欲もあり、体調も良好です。15時過ぎから一時アラレがパラパラ降ります。今晩はBCからパダムさんに持たせてもらった、ジャガイモ・キャベツ・人参の生野菜を使ってカレーシチューを作ります。スペイン隊から頂いた生ハムも肉代わりに使います。


▲【雪面を切って作ったC3のテント場】

【5月18日】 C2 → C3

 朝5:00の外気温は−16℃で今朝も快晴ですが、昨日と同じパターンです。昨夜来の強風が吹きましたが、明るくなる4時半頃から止みました。ノースコル方面を見上げると朝方なのに大ピナクルとノースコルに雪煙が上がっていないのを久し振りに見ました。天気予報が当たったかなとうれしく思います。
 7時半に出発すると、直ぐにノースコルに雪煙が上がっているのが見えます。トランシーバ交信では、1次隊も風は強い中を出発したそうです。
 我が隊も風が強まって地吹雪がC3まで続きました。手足の先が冷えて少し痛みますが、今回もダウンミトンをしているし、ビタミンEを飲み続けていた事と、上から貼るホッカイロを貼り付けていたので、手足の指先を動かし続けていれば凍傷になる気配は無く、12時半過ぎに何とかC3に到着しました。ナイケピークも眼下なってきます。この頃から風が殆ど止みました。
 C3に着いてから、未だ一度も辿った事の無い明日のルートをチェックして見ていると、登行中の人影が小さな豆粒に見えました。あの中に1次隊が居るのだろうかと思いますが、全く判りません。

    ▲【C4へ向かう人影の小さな豆粒】       ▲【ナイケピークも眼下、右側はクタン・ヒマール】
 人影の小さな豆粒を辿ると、風の影響を避けるためかノースコルを経由しないで手前から取り付いています。それから テカテカ光っているセラック帯に向かってジグザクに登高してセラック帯を登ってから、更に急斜面を這い上がって、こちら側から見えない裏側のプラトー付近のC4に向かっているようです。
 夕刻のトランシーバ交信でチェットさんから、KK隊2名(副隊長のIさんとTさん)がBCを本日出発したそうです。それに、「ボチボチ・トレック」がエージェントをしている、北海道の栗城史多さんが本日午後2時にダウラギリに登頂したと連絡が入りました。嬉しい事です。やはりヒマラヤ一帯で天気が良いのだろうと思いました。エベレストも今日・明日辺りにサミット・ラッシュが起きるのではないかなと思いました。また、悲報も届きました。C3からC4に登行中の3人のハンガリー隊の内の1人が、青氷のロープ手前で滑落死したそうです。


▲【セラック帯に向かって行く】

【5月19日】 C3 → C4(1次隊:登頂)

 朝5:00の外気温は−18℃で今朝も快晴です。7時半に隊長の指示でもある酸素ボンベを着けてC3を出発しました。ところがマスクを着けると苦しくて仕方ありません。何度も止まってマスクを装着し直したりしますが、マスクを外した方が楽なのです。どう考えても、酸素がまともに来ていないような気がします。ダワにおかしい所をみてもらっても埒が明きません。結局50mも進まない間に酸素を吸うのを断念しました。無酸素で行ける所まで行って見ようとしました。このモタモタしている間に三つ指さんはずっと先に行っています。こちらも無酸素になったのでとても追いつく事はできません。
 5〜10呼吸して1歩というリズムで両手にストックで登り続けます。次第に斜度がきつくなってきて、感覚的に斜度が40度程あるように感じます。でも雪質が良くて足首程度までの足跡 を辿れば、雪が崩れる事も無く、アイゼンも適度にささるので滑落の恐怖感はありません。
 登り続けていると、呼吸が次第に苦しくなって登行スピードが落ちて、一歩に対する呼吸数が多くなってきているのに気付きます。7200m付近で、何とか酸素を吸えないかなと思い始め、C4に荷揚げしている予備のマスクをダワが持っているのを思い出したので、マスクを交換して酸素を吸い始めると、酸素の効果がしっかり感じらてホッとしました。以降ずっと、酸素を吸っての行動となりました。 テカテカ光っているセラック帯に向かってトラバース気味にジグザクに登ります。呼吸を整える間に振り向くとナイケピークやノースピークが次第に低くなってくるので少しずつ登れているのが実感できて励まされます。

【ノースピークが少しづつ】       →            【低くなってくる】      


 【ナイケピークも】             →         【少しづつ低くなってくる】
 セラック帯に入ると、アイスバーンの上に所々雪が乗っている感じでいやらしさが出てきます。固定ロープは一切ありません。何箇所かのうねりを越えると青氷の壁の下に出ます。上から固定ロープが3本垂れています。壁を直登しなくても、右の方から回った方が楽なのになと思いますが、自分でルートを切り開く実力と体力はありませんのでこれを登るしかありません。ここでトランシーバ交信から1次隊全員が登頂に成功した事が判りました。そうなれば、今日は1次隊はC4を通過して、C3まで下る事になります。どこかで会える筈です。
 30m程の壁ですが、青氷の凹部に所々薄く着雪があります。ユマールをセットして登り始めますが、薄く着雪している所にアイゼンの前爪を打ち込めば、はじき返される事も無く、難なく楽に越えられました。むしろその後の斜度のある登りの方が、きつく感じます。アイゼンが入り難く、固定ロープは雪に埋まって所々顔を出している所をカラビナをかける程度なのですが、露出部が短く断続的で使い難く、かけかえを辛く感じます。滑落しないよう慎重に登り続けます。

▲【氷壁の登行】

 暫くするとトラバース帯に入ります。どうやら急登は終わったようです。この頃から雪が降り始めます。トラバースで何度も緊張する所を越すと青氷の上に着雪がある斜度のゆるい所に出ます。風が強くなって来ます。ほぼC4の手前だなと思い始める頃、下って来る6人の1次隊に出会いました。天候も悪いし、くたびれている1次隊とゆっくり話す余裕は無く成功のお祝いを言う程度ですれ違いました。その後、青氷状態の緩やかな傾斜地帯をトラバース気味に200m程進むと、プラトーの麓のC4に16時前に到着しました。
 十数張りのテントが散在しています。隣のテントからスペイン隊のロロさんと女性隊員の声が聞えて来ます。今日登頂してここで滞在しているようです。小雪で弱い風もが続いています。明日は午前1時起きで2時出発の予定ですので、今日は早く休まなければなりませんが、夕食の雑炊や水分補給で寝るのに19時を過ぎてしまいました。



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メラピークKOBE(兵庫県労山に所属する神戸の山岳会)


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